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京都地方裁判所 平成2年(ワ)2317号 判決

原告

長井久夫

ほか一名

被告

株式会社大輪運輸

ほか三名

主文

一  被告株式会社大輪運輸及び被告西岡弘治は、各自、原告長井久夫に対し、金一五五万三八五三円及びこれに対する平成元年五月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告株式会社大輪運輸及び被告西岡弘治は、各自、原告藤井多恵子に対し、金三九万六三四五円及びこれに対する平成元年五月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを八分し、その一を被告株式会社大輪運輸及び被告西岡弘治の、その余を原告らの負担とする。

五  この判決は、一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告らの請求

一  被告らは各自、原告長井久夫に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する平成元年五月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは各自、原告藤井多恵子に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成元年五月二三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、追突事故により傷害を負つたタクシーの乗客が、追突した普通貨物自動車の運転者及び所有者並びに乗車していたタクシーの運転者及び所有者に対し、民法七〇九条及び自賠法三条に基づき、損害賠償を請求した事件である。

二  争いのない事実~交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

1  日時 平成元年五月二三日午後一時二〇分ころ

2  場所 京都市山科区音羽山等地五八番地先路上(国道一号線)

3  第一車両 被告西岡が運転し、被告大輪運輸が所有する普通貨物自動車(神戸一一う二七三三、以下「西岡車」という。)

4  第二車両 被告谷口が運転し、被告関西タクシーが所有し、原告らが乗車していた普通乗用自動車(京五五え六八二二、以下「谷口車」という。)

5  事故態様 西岡車が谷口車に追突した。

三  争点

1  被告西岡及び同谷口の過失の有無

2  原告らの受傷の事実

3  損害

第三争点に対する判断

一  被告西岡及び同谷口の過失の有無

1  証拠(乙四、丙一の2~4、原告長井、被告谷口、被告西岡)によると、以下の事実が認められる。

(一) 原告らは、音羽病院から大津市内にある大津プリンスホテルへ行くために、同病院前で、訴外秀平健一及び同矢野サユリとともに、被告谷口が運転するタクシー(谷口車)に乗車した。被告谷口は、大津市内へ行く道がよくわからず、名神高速道路京都東インターチエンジ料金所前に出てしまつたため、そこで転回し、国道一号線方向へ向かつた。

(二) 本件事故現場の状況は、別紙図面のとおりである。

被告谷口は、京都東インターチエンジ方向から国道一号線南行車線に進入進行したが、南行車線は大津とは反対方向へ向かう車線であつたため、国道一号線の北行車線に入る必要があつた。そこで、被告谷口は、同所付近は転回禁止の規制がなされていたけれども、中央分離帯が切れたところから北行車線に転回しようと考え、国道一号線南行車線の追越車線に入り、別紙図面〈ア〉の地点で、右方向指示器を出し、やや右斜めの方向を向いて停止し、転回のため待機した。

(三) 被告西岡は、兵庫県三田市にある被告大輪運輸の営業所から京都市山科区にある取引先まで荷物を運ぶ途中、名神高速道路京都東インターチエンジから国道一号線に進入した。

(四) 被告西岡は、国道一号線南行車線の追越車線を時速約六五キロメートルで進行し、別紙図面〈1〉の地点で前方約五三・八五メートルの地点に停車中の谷口車を発見したが、同車の前方に停止車両がなく、同車がやや右斜めを向いて右方向指示器を出していたため、同車はそのまま右(北行車線)へ転回するものと考え、前記速度のままで進行したところ、同車の後方約二三・〇メートルの別紙図面〈2〉の地点に至つても谷口車が停止したままであるため、衝突の危険を感じ、急制動の措置を講じるとともに、別紙図面〈3〉の地点でハンドルを右へ切つて衝突を回避しようとしたが、間に合わず、谷口車右後部から右側面部にかけて自車左前部を衝突させた。

2  以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

被告谷口は、本件事故現場南の交差点を右折するつもりであつたと供述しているけれども、谷口車は車線に対してやや右斜めに停止していること、同車は同交差点が青信号になつても発進していないこと、右折後どのような方法で北行車線に入るかについての被告谷口の供述はあいまいであることなどを考えると、被告谷口は、国道一号線の中央分離帯が切れた本件事故現場において北行車線への転回を考えていたものと認めるのが相当である。

被告西岡は、谷口車が道路を横切るような形で自車の前へ出てきた、谷口車と接触したとき谷口車は動いていたと供述しているけれども、本件事故当日に行われた実況見分の際被告西岡は1で認定したとおりの指示説明を行つており、同人が谷口車を最初に発見した時点において谷口車はすでに転回のために停止待機していたものと認められること(丙一の4)、原告長井は当裁判所においては衝突の時谷口車が停止していたかどうかは覚えていないと供述しているが事故直後音羽病院の医師に対してはタクシーは停止していた旨述べていること(乙四)などの事実に照らすと、前記のような被告西岡の供述は信用することはできない。

3  以上の認定事実に基づき検討するに、被告西岡が、転回のために停止中の谷口車を発見したものの同車がそのまま右へ転回するものと考え、前方注視を怠つたまま漫然と時速約六五キロメートルで進行したため、停止中の谷口車に後方から追突したものであつて、本件事故はもつぱら被告西岡の過失により生じたものであり、他方、被告谷口には過失はないものと認められる。

4  したがつて、被告西岡は民法七〇九条に基づき、被告大輪運輸は自賠法三条に基づき、原告らの損害を賠償する責任がある。

そして、被告谷口に過失はなく、被告関西タクシーに自賠法三条の責任は生じないから、原告らの被告関西タクシー及び被告谷口に対する請求は理由がない。

二  原告長井の傷害の有無及び程度

1  証拠(甲七~一一、乙四~六、丙一の4、原告長井)によると、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故の態様等

本件事故当時、原告長井は、被告谷口の運転するタクシーの助手席に同乗していた。

谷口車が国道一号線を転回するために停止していたところ、被告西岡の運転する普通貨物自動車が、谷口車の右後部から右側面部にかけて衝突した。被告西岡は、前方注視を怠つたまま時速約六五キロメートルで進行していたが、谷口車の後方約二三・〇メートルの地点で衝突の危険を感じ、急制動の措置を講じるとともに、右にハンドルを切つたが間に合わず、谷口車に衝突した。

西岡車は衝突後、谷口車を引つ掛けた形で、約一九・三メートル進行して停止した。西岡車に衝突された谷口車は、西岡車に引つ掛けられた形で、約一三・二メートル進行して停止した。

本件事故により、谷口車は、右後部フェンダー・右前後ドア・右前部フェンダー破損等の損傷を負つた。

(二) 原告長井の治療経過等

原告長井は、内痔核の手術のため、平成元年五月一一日から音羽医院に入院し、同月一六日に手術を受け、引き続き術後の療養のため入院していたものであるが、同月二三日外出の許可を得て、原告藤井らとともに音羽医院から大津プリンスホテルへ行く途中で本件事故にあつた。

原告長井は、本件事故後、音羽病院へ救急車で戻り、頸部痛・胸部痛・腰痛・右下肢痛を訴え、頸椎捻挫・腰椎捻挫の診断を受けた。原告長井は、その日は、当初の予定通り大津プリンスホテルに宿泊した。

原告長井は、翌二四日から同年六月二四日まで音羽病院に入院し(六月二日に事務取扱上五月二四日より事故入院とされた。)、同月二五日から平成二年二月一七日まで(実日数一七日間)同病院に通院して治療を受けた。また、原告長井は、音羽病院退院後、平成元年六月二五日から同年一二月二五日まで(実日数三八日間)山田整形外科に通院してリハビリ治療を受けた。

原告長井は、入院中、両下肢のだるさ・右下肢のつつぱり感・右下肢の筋力の低下・いらいら・吐き気・頭痛・不眠等の自覚症状を訴えたが、他覚的には、左上肢・両下肢の知覚鈍麻及び筋力低下が認められたほかは、レントゲン写真上骨傷はなく、神経学的にも異常な反射は認められなかつた。治療としては、内服薬・外用薬の投与、腰・頸の牽引、ベッド上安静等の保存的対症的治療が行われた。

なお、音羽病院の医師は治療のため入院が絶対に必要とは考えていなかつたが、原告長井本人が四国の者で通院には支障があるという理由で入院を希望したことと内痔核手術後であることにより、引き続き入院させることとなつた。また、原告長井は、入院中、いらいらすると訴えることが多く、医師や看護婦に大声を出して種々の不満を訴えたり、医師らの指示を守らず喫煙を続けるなどしていた。そして、これらの問題や無断外出外泊の問題から、六月二四日医師の指示により退院することになつた。

原告長井は、退院後、山田整形外科ではリハビリ治療を受け、音羽病院では入院中と同様の保存的対症的治療を受けたが、症状はほとんど変わらなかつた。

2  以上の認定事実に基づき原告長井の負傷の事実の有無を検討するに西岡車は谷口車の右側面を引つ掛けるような形で衝突しており、真後ろからの衝突ではないものの、停止していた谷口車が約一三・二メートル押し出されているのであつて相当程度の衝撃があつたと考えられること、原告長井は本件事故後いわゆる鞭打ち症の自覚症状である頸部痛・腰痛・右下肢痛等を訴え、音羽病院の医師により頸椎捻挫・腰椎捻挫の診断を受けていること、いわゆる鞭打ち症のうち症状が靱帯、神経根、血管等の微細な損傷に起因する場合には一般に他覚的所見が明確になりにくいといわれていることなどを総合して考慮すると、原告の負傷の事実及び本件事故との因果関係を認めることができる。

3  そこで、進んで原告長井の症状固定時期について検討するに、一般に外傷性頸部症候群症例の約六割は三か月以内に症状固定に至るといわれているところ、本件事故の態様からすると本件事故による頸部及び腰部に対する衝撃は特に激しいものとはいえないし、また先に認定したような入院の経緯や原告長井の症状は他覚的所見に乏しいことから考えると真実入院が必要である程度の傷害であつたかどうか疑問であること、さらに治療内容はもつぱら保存的対症的治療に終始し、症状の改善がほとんどみられないことなど前記1で認定したとおりの本件事故の態様、原告の症状の内容及び推移、治療の内容、通院の頻度等を総合して考慮すると、本件事故による原告長井の傷害は、事故発生後約三か月が経過した平成元年八月末には症状固定の状態に至つていたものと認めるのが相当である。

4  さらに進んで、原告長井の後遺障害の有無について検討するに、原告長井が提出した後遺障害診断書(甲一一)によると、左上肢・両下肢の知覚鈍麻、上腕三頭筋反射及び下肢膝蓋腱反射低下、左上肢・両下肢の筋力低下、頸部腰部運動障害の所見が認められるが、いずれも軽度なものである上、前記1で認定したとおり、原告長井の症状には当初より他覚的所見が乏しくもつぱら自覚的症状のみであること、長期の治療にもかかわらずほとんど症状の変化がみられないこと、入院中からいらいらして大声をあげることが多く、原告長井の訴えには心因的要素に起因する部分が多いとも考えられることなどを総合して判断すると、原告長井には、局部に神経症状が残つたということはできず、自賠法施行令二条別表第一四級第一〇号に相当する後遺障害は認められない。

三  原告長井の損害

1  治療費(請求額一一七万〇九四〇円) 一〇〇万七一一五円

入院治療費及び症状固定日までの間の通院治療費の総額が本件事故と相当因果関係のある損害というべきところ、証拠(甲六、七(山田整形外科の治療費については平成元年九月末までの治療費を通院日数で按分した。)、二二)によると、右金額となる。

2  入院雑費 三万八四〇〇円(請求額のとおり)

日額一二〇〇円の三二日分

3  通院交通費(請求額一五万〇三八〇円) 三万五四〇〇円

原告長井は、タクシーによる通院交通費を請求し、医師のタクシーによる通院が妥当であつた旨の診断書(甲二三)を提出しているけれども、先に認定したような症状の程度及び治療経過等に徴するとこれを信用することはできず、平成元年六月末までをタクシーによる通院が必要であつた期間と認め、その後は鉄道等による通院が相当であると考えられるので、通院交通費は一日当たり五〇〇円と認めるのが相当であるから、右金額となる。

26,900+500×(13+4)=35,400

4  休業損害(請求額五四〇万円) 三三万二九三八円

原告長井は、本件事故当時、不動産取引と債権取立を業とする矢野総業に勤務し、月六〇万円の収入を得ていたと主張し、矢野隆作成の給与証明と題する書面(甲五六)を提出しているけれども、右書面は公的な証明書ではなく、また、税金申告関係の書類等これを裏付ける書類は一切提出されておらず、これを信用することはできない。

証拠(原告長井)によると、原告長井は、本件事故当時満三七歳の健康な男子であり、不動産取引と債権の取立を業とする矢野総業に勤務していたこと、矢野総業は不動産取引を業とするとはいうものの宅地建物取引業者の免許を有している者はおらず事実上の斡旋を行うにすぎない会社であること、矢野総業は愛媛県今治市に所在するにもかかわらず原告長井は大津市に居住していることの各事実が認められ、また、他に矢野総業の営業の内容、損益の状況等を認定するに足りる証拠はない。これらの事実を総合して判断すると、原告長井は、本件事故当時、平成元年賃金センサス第一巻第一表・企業規模計・産業計・男子労働者・新高卒三五~三九歳の平均年収である四八六万〇九〇〇円の五割程度の収入を得ていたものと認めるのが相当である。

そして、先に認定したとおりの原告長井の症状及治療の経過から判断して、原告長井は、本件事故の翌日から症状固定した平成元年八月末まで一〇〇日間、平均して五〇パーセントその労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

4,860,900×0.5×100/365×0.5=332,938

5  逸失利益(請求額九九万六八一五円) 〇円

先に認定したとおり、原告長井には、後遺障害は認められないから、後遺障害によるめ労働能力喪失を理由とする逸失利益は認められない。

6  慰謝料(請求額二二五万円) 四〇万円

本件事故により原告長井が負つた傷害の内容及び程度、治療期間、通院の頻度等を総合して考慮すると、原告長井の精神的損害に対する慰謝料としては、四〇万円が相当である。

7  損害の填補

以上を合計すると一八一万三八五三円となるが、原告長井が自賠責保険から金四〇万円をすでに受領していることは、当事者間に争いがないから、これを控除すると、原告長井が被告に対し請求できる金額は一四一万三八五三円となる。

8  弁護士費用(請求額三九万三四六五円)

原告長井について、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、一四万円と認めるのが相当である。

9  結論

以上を合計すると、一五五万三八五三円となる。

四  原告藤井の受傷の事実

1  証拠(甲一五~二〇、乙七、八、丙一の4、原告藤井)によると、以下の事実が認められる。

(一) 本件事故の態様等については、前記二1(一)で認定したとおりである。

本件事故当時、原告藤井は、被告谷口の運転するタクシーの助手席の後ろの座席に同乗していた。原告藤井は、本件事故により、顔面を前の座席で打つた。

(二) 原告藤井の治療経過等

原告藤井は、本件事故後、原告長井らとともに音羽病院へ救急車で行き、頸部痛・頭痛・顔面部痛を訴え、右顔面打撲・頸椎捻挫等により今後約一週間の安静加療を要するとの診断を受けた。

原告藤井は、本件事故当日から平成二年二月一七日まで(実日数二六日間)同病院に通院して治療を受け、また、平成元年六月二六日から同年一二月二六日まで(実日数四五日間)山田整形外科に通院してリハビリ治療を受けた。

原告藤井は、音羽病院通院中、項部・左頸部痛・頭痛等の自覚症状を訴えたが、通院当初から、めまい・吐き気・嘔吐といつた症状はなく、レントゲン写真上も神経学的にも異常は全く認められなかつた。治療としては、内服薬・外用薬の投与、理学療法(項部極超短波及び頸椎牽引)等の保存的対症的治療が行われた。また、山田整形外科においては、頸椎牽引と温熱療法によるリハビリ治療のみが行われた。

2  以上の認定事実に基づき原告藤井の負傷の事実の有無を検討するに、前記二2で述べたとおり本件事故による乗客への衝撃は相当程度のものであつたと考えられること、原告藤井は本件事故後いわゆる鞭打ち症の自覚症状である頸部痛・頭痛等を訴え、音羽病院の医師により右顔面打撲・頸椎捻挫等の診断を受けていること、いわゆる鞭打ち症のうち症状が靱帯、神経根、血管等の微細な損傷に起因する場合には一般に他覚的所見が明確になりにくいといわれていることなどを総合して考慮すると、原告の負傷の事実及び本件事故との因果関係を認めることができる。

3  そこで、進んで原告藤井の症状固定時期について検討するに、一般に外傷性頸部症侯群症例の約六割は三か月以内に症状固定に至るといわれているとこと、本件事故の態様からすると本件事故による頸部に対する衝撃は特に激しいものとはいえないし、原告藤井は、項部、左頸部痛、頭痛等の自覚症状を訴えたが、通院当初から、めまい・吐き気・嘔吐といつた症状はなく、レントゲン写真上も神経学的にも異常は全く認められず、治療内容はもつぱら保存的対症的治療に終始し、症状の改善がほとんどみられないことなどを総合して考慮すると、本件事故による原告藤井の傷害は、事故発生後約一か月が経過した平成元年六月末には症状固定の状態に至つていたものと認めるのが相当である。

4  さらに進んで、原告藤井の後遺障害の有無について検討するに、原告藤井が提出した後遺障害診断書(甲二〇)には、自覚症状として、頭痛・両肩こり・左手指先のしびれ感という記載があるのみで、他覚的には頸椎部に軽度の運動制限を認めるほか異常な所見は全く認められず、先に認定したとおり、原告藤井の症状には当初より他覚的所見が乏しくもつぱら自覚的なものであつたこと、長期の治療にもかかわらずほとんど症状の変化がみられないことなどを考え併せると、原告藤井には、局部に神経症状が残つたということはできず、自賠法施行令二条別表第一四級第一〇号に相当する後遺障害は認められない。

五  原告藤井の損害

1  治療費(請求額二四万六六六五円) 九万七三三〇円

入院治療費及び症状固定日までの間の通院治療費の総額が本件事故と相当因果関係のある損害というべきところ、証拠(甲一五~一七(いずれも通院日数で按分した。))によると、右金額となる。

2  通院交通費(請求額一万三八八〇円) 六五〇〇円

原告藤井は、タクシーによる通院交通費を請求しているけれども、タクシーによる通院が必要であつたと認めるに足りる証拠はないので、鉄道等による通院交通費として一日当たり五〇〇円を認めるのが相当であるから、右金額となる。

500×(11+2)=6,500

3  休業損害(請求額二六六万〇三一〇円) 一四万二五一五円

原告藤井は、本件事故当時、ホステスとして稼働し、一日九八五三円の収入を得ていたと主張し、伊藤武男作成の給与証明書と題する書面(甲五七)を提出しているけれども、右書面は公的な証明書ではなく、また、税金申告関係の書類等これを裏付ける書類は一切提出されておらず、これを信用することはできない。

もつとも、証拠(原告藤井)によると、原告藤井は、本件事故当時満三〇歳の健康な女子であり、十和観光にホステス(いわゆるソープランド嬢)として稼働していたこと自体は認められるから、平成元年賃金センサス第一巻第一表・企業規模計・産業計・女子労働者・新高卒三〇~三四歳の平均年収である二七三万七八〇〇円程度の収入を得ていたものと認めるのが相当である。被告らは、原告藤井はいわゆるソープランド嬢であり、売春等の公序良俗に反する違法行為を業としている者であるから、これに基づく休業損害は認めるべきではないと主張しているけれども、右のような同年代の平均賃金程度の収入を基礎として休業損害を算定することは法的に許容されるものというべきである。

そして、先に認定したとおりの原告藤井の症状及び治療の経過から判断して、原告藤井は、本件事故の翌日から症状固定した平成元年六月末まで三八日間、平均して五〇パーセントその労働能力を喪失したものと認めるのが相当である。

2,737,800×38/365×0.5=142,515

4  逸失利益(請求額四九万一〇八〇円) 〇円

先に認定したとおり、原告藤井には、後遺障害は認められないから、後遺障害による労働能力喪失を理由とする逸失利益は認められない。

5  慰謝料(請求額一五〇万円) 一五万円

本件事故により原告藤井が負つた傷害の内容及び程度、治療期間、通院の頻度等を総合して考慮すると、原告藤井の精神的損害に対する慰謝料としては、一五万円が相当である。

6  損害の填補

以上を合計すると、三九万六三四五円となるが、原告藤井が自賠責保険から金五万円をすでに受領していることは当事者間に争いがないから、これを控除すると、原告藤井が被告に対し請求できる金額は三四万六三四五円となる。

7  弁護士費用(請求額一三万八〇六五円)

原告藤井について、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、五万円と認めるのが相当である。

8  結論

以上を合計すると、三九万六三四五円となる。

(裁判官 岡健太郎)

別紙 〈省略〉

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